フランス、パリのカフェ文化

 交差点ごとに1〜2軒のカフェがあるパリという街。大きめの広場となると、そのまわりには4〜5軒程のカフェがひしめき合っています。パリのカフェはたいてい朝早くから夜遅くまで営業しており、エスプレッソやビールにワイン、サンドイッチやオムレツからステーキや煮込み料理に至るまで、自分の都合に応じて楽しめます。多くのカフェには歩道に張り出されたテラスがあり、大きなひさしの下には何列にも渡って椅子が並んでいます。街行く人を眺めながら友人と会話をしたり、心ゆくまで考え事をたり。パリのカフェテラスで過ごす時間は何とも言えない喜びです。
 

 とはいえカフェの魅力はテラスだけにあるわけではありません。実はどんなカフェにもテラスとは対照的なカウンターがあるのです。テラスが観光客や一見さん向けならカウンターは主に常連客用。エスプレッソもカフェ・クレームも、基本的にテラスや店内より安く設定されています。エスプレッソはカウンターならほぼ1ユーロ。どんなに豪華な造りの空間だってこんな値段で過ごすことができるというのは本当に贅沢なこと。カウンターは基本的に立ち飲みで、5〜10分くらい、ちょっと朝食をとりたい時や、グッとエスプレッソを飲みたい時に立寄って、スッとお勘定して去っていく。主人は常連客に挨拶すると何も言わずに「いつもの」飲み物を出しています。握手して挨拶する人、ほとんど無言で立ちながら昼食をとっている人・・・街を見渡せるのがテラスなら、店内をぐるりと見渡せるのはカウンターといえるでしょう。銅や亜鉛のどっしりした板に片肘をつき、グラス片手に店内模様をそっと眺める。いつでも立ち寄れ、誰かに出会い、忙しい日常から自分を一時リセットできる、日常の中にそんな場があるのです。
 


 アメリカ人の社会学者、レイ・オルデンバーグは著書 "The Great Good Place"の中で「パリのカフェほどサードプレイスとして認めやすいものは他にない」と述べています。サードプレイスとは、家庭(第一の場)でも職場(第二の場)でもなく、友人や知人たちと気軽に落ち合える場所のこと。スターバックスの社長はこの概念に影響を受け、人々のサードプレイスを目指したカフェを作ったそう。オルデンバーグは、「フランス人たちはアメリカ人に比べてこの3つの柱のバランスがとれている」と述べています。サードプレイスは家庭や職場では満たしきれない人間の欲求をしっかりと満たしてくれる場所なのです。誰かとちょっと話したい、人の集まるところにいたい、珍しいものに出会いたい・・・ホームパーティを開催するのでも、2週間前から約束を取り付けるのでも、車で1時間かけて人に会いにいくのでもなく、ちょっと自分の気が向いた時に階下まで出かけていったら誰か居る。そんな場所がサードプレイスで、まさにパリのカフェはそんな場だと言えるでしょう。
 

  パリはカフェで溢れている街。誰かと話をしながらちょっと疲れた時や休みたい時、目線の先にはたいていカフェがあるものです。夜が更けるにつれて賑わいを増していくカフェ。冬場でさえも、多くのカフェはテラスに暖房を入れて、テラスは楽しそうに語り合う人々で大賑わい。そんな姿を見ていると、自分も仲間に入りたい、と強く思ってしまうもの。パリには彼らにとっては当たり前の、何気ない暮らしの豊かさがあると思うのです。世界中の人々がつい憧れてしまうのはそういった豊かさなのではないでしょうか。